私ども産業工学研究所は30年以上にわたって、MOT(技術経営)を様々な企業に対して推進してきました。私どもがこれほどまで、日本の企業にMOT(技術経営)の必要性を説く理由は明確です。それは、今後、日本の企業が国際競争力を身につけていくには、MOT(技術経営)を活用することが大きな鍵を握ると確信しているからです。
産業構造が大きく変化する今日では、日本の製造企業は今までのやり方では通用しない状況下にさらされています。自動車1つとってみても、ガソリン自動車から電気自動車に急速にシフトしており、それに付随するように自動車に必要な部品新しいものが要求されています。つまりは、時代のニーズに適う製品を支える技術レベルで新たな変革が必要とされているのです。
このような激変する環境下で、日本の製造企業が国際競争に勝ち、さらなる持続的成長を成し遂げるには、技術経営(MOT)が重要な意味を持ちます。
日本経済新聞社と日経リサーチが共同開発した多角的企業評価システム「PRISM(プリズム)」によれば、2007年度の優れた会社ランキング上位は、いずれも「技術マネジメント力でこの分野にはどこにも負けない」という明確な戦略を立てた企業でした。このように技術マネジメント力、すなわち技術経営(MOT)の優劣が、「優れた会社」の評価軸の1つとなっています。事実、ホンダ、キャノン、リコー等のランキング上位の常連企業は、経営トップからこの技術経営(MOT)に力を入れている企業です。
「優れた製造企業」の第一条件である高い収益力・成長力を確保するには、高付加価値のある製品づくりが不可欠です。このため、企業は技術の戦略的な展開を一段と迫られており、技術経営(MOT)のかじ取りが重要になってくるのです。とりわけ、100年に1度と言われる大変革期の今日では、これまでにない技術革新、イノベーションが起こる土壌が整いつつあります。この大変革期をチャンスにできるかどうかは技術経営(MOT)にかかっていると言っても言い過ぎではありません。
今日の企業活動における付加価値の源泉は、販売力と開発力です。これまでの企業活動で重視されてきた生産力は、中国などの安価な労働力によるコスト競争などで付加価値を生み出すことが難しくなっています。つまり、第2次産業革命で有効であった「規模の経済」が通用しなくなり、現在の第3次産業革命では「範囲の経済」が有効とされてきたのです。
「規模の経済」は生産量の増大に伴い、コストが減少し、結果、利益率が高まることを指すのに対し、「範囲の経済」は経営資源を共有し、多角的な事業展開によって生じるシナジーの結果、利益率が高まることを指します。「範囲の経済」では、製造企業はコア技術を獲得し、深化させていくためにイノベーションを起こすことが必要であり、イノベーションの源泉となる研究開発活動が事業戦略の中核を担います。
日本の一般的な製造業における、付加価値と企業価値の関係を表したものが図-1になります。「開発(企画)」、「生産」、そして「販売(サービス)」という企業活動の流れの中で、「開発(企画)」と「販売(サービス)」が高付加価値を持ち、「生産」については低付加価値となります。
先に触れた中国等の安価な労働力に代表されるように、「生産」は生産効率の向上に対して、その合理化の徹底により限界をきたしています。これから日本の製造企業が他社と差別化を図り、国際競争力を有するには、高付加価値を有する「開発(企画)」と「販売(サービス)」です。そして、製造企業における、この「開発(企画)」と「販売(サービス)」の付加価値向上とは、まさに技術経営(MOT)そのものなのです。
技術経営(MOT)とは、つまるところ、技術を事業につなげる経営のことを指します。どのように技術を事業化するか、いかにして技術戦略と経営戦略の相乗効果を高めるか、あるいは、技術でいかに収益をあげ、技術でいかに成長していくか、ということを主眼にした経営がまさに技術経営(MOT)なのです。
今、日本の製造企業は、曲がり角に立っています。これまで日本の製造企業が大切にしてきた「量のモノづくり」と「質のモノづくり」は、「価格」と「価値」の追求ですが、それだけでは今日の激動する環境を勝ち抜くことが難しくなってきました。日本の製造企業が求められているのは、技術戦略と経営戦略の融合を進め、これまでより遥かに高次のモノづくりです。高次のモノづくりなしに新たな価値を生み出し、企業を将来的に成長させていくことは不可能です。
すなわち、この技術戦略と経営戦略の融合を推進し、高次のレベルのモノづくりを実現する経営手法こそ、技術経営(MOT)の扱うところなのです。卑近な言い方を持ち出せば、技術経営(MOT)とは、「技術力で稼ぐ」ということに他なりません。
株式会社産業工学研究所
前川 守